そのバーは、千日前筋から西に入った横筋で、道路から半分下がった半地下で
ドァは、黒い格子に厚い磨りガラスの入った内開きだったと思う。

もう十二時は廻っていただろう。

「呑まして呉れないか」とドァを押して入ったら、
椅子をカウンターに、皆上げて電灯も一つだけ、
二人ほどいた女は帰り支度をしていた。

カウンターの中に居たバーテンは、
女たちに「もう、帰っていいよ」と言いながら
手を伸ばして椅子を一つ降ろし、「どうぞ」と言ってくれた。

それから、二人だけで呑み、ふと気が付くと午前二時頃だったか?

お互いに顔見合わせて、「朝までやるか」と大笑い。

カウンターに差し向かいのバーテンと私、
回りの椅子は全部上げられて脚を上に、

周り総てが暗やみの中に、
電燈が二人の真上にただ一つ、
それ以外は真っ暗なバー

酒飲み人生の中で最も
酒の持つ雰囲気を
味わえた境地だった。

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